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2006年5月20日 (土)

『人生案内』

  清水幾太郎には94冊の単著がある(編著や翻訳書を除く)。『清水幾太郎著作集』全19巻に収められているのはその一部に過ぎない。『社会学入門』(カッパブックス、1959)、『論文の書き方』(岩波新書、1959)、『本はどう読むか』(講談社現代新書、1972)といった広く読まれた本も著作集には収められていないのだ。だから著作集未収録の本については「日本の古本屋」などで調べてコツコツ収集していくほかはない。
  先日、『人生案内』(岩波書店、1954)という本が金沢文圃閣から出品されていたので3200円で購入した。清水の本の多くが総合雑誌等に寄稿した文章を集めて単行本化したものであるのに対し、この本は書き下ろしである。雑誌に発表した文章を集めた本であれば、その本が入手できなくとも、初出の雑誌からコピーすれば用は足りるのであるが(ただし単行本に収録する段階で改稿がなされることがあるので油断はできない)、書き下ろしの場合はともかくその本を入手しないと話にならないので、今回は収穫であった。
  『人生案内』の構成は以下の通り。

  Ⅰ 勇気について
  Ⅱ 一枚底について
  Ⅲ 現場について
  Ⅳ 仲間について
  Ⅴ 地方文化について
  Ⅵ 経験について
  Ⅶ 戦いについて
  あとがき

  「人生案内」というタイトルから連想する内容とは隔たりがある。清水には『女性のための人生論』(河出新書、1956)という本があって、これは『婦人公論』(1951年1月号~1953年12月号)に「家庭の話題から」というタイトルで連載された文章(文体は「です・ます」調で平易)をまとめたものであったが、『人生案内』もそれと同様、いわゆる「身の上相談」ではなく、「個人的な問題は社会的=政治的な問題であり、社会的=政治的な問題は個人的な問題である」という啓蒙的な視点から書かれた社会評論である。両方とも「人生」という本の内容とはいささかギャップのある言葉がタイトルに使われたのには、伊藤整の『女性に関する十二章』(中央公論社、1954)がもたらした当時の人生論ブームに便乗しようという出版社の思惑も働いていたのかもしれない。敗戦から10年、復興期から高度成長期への移りかわりの季節の中で、人々は人生と社会について思いをめぐらすゆとりを手に入れたのだろう。利己主義と利他主義が一瞬のバランスを得た稀有な時代だったといえるかもしれない。

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